Racco

ウィキペディアのこととか。

【創作短編SF:AI社会】

オフィスのメンバーから人間がいなくなり、すべてAIに任せるようになってから2か月が過ぎた。
俺は管理職としてこの課に残り、AIの仕事ぶりを見守るだけの毎日を送っていた。
ここのAIにはもっと能力があることはわかっている。ただ、管理するほうの能力の問題もあるので、今はヒトの形を模したAIを5体、この課で活動させており、彼らからすると簡単な業務をわざわざ細分化して役割を設定し、個々に少しずつの仕事を任せている。
本格導入は今期からなので、稼働時間も日も限定的だ。わざわざヒトの形をしてあるのも、業務を分担させるのも、本来は必要がないことはわかっているが、管理する側の人間が少しずつ人間ではない部下に慣れていかなくてはいけない。
他社ではドラスティックに変革して「所詮AIはAI」として無機的に扱っているところもあるようだ。うちの会社は人間側のストレス軽減のために、AI一体ごとに名前を付け、命令や指示のコマンドはなるべく平易な日本語にして、徐々になじませていくという余裕を持たせた。
毎日退社時に彼らの仕事の進捗状況をチェックするだけの仕事は、やりがいという前時代的な感覚とはかけ離れているものの、今では自分のスキルを磨くのは仕事という面ではなくなりつつある。
SAMと呼んでいる1体のAIの作業効率が少し落ちてきているとわかったのは、先週の頭だったか。彼の能力であればもっとこなせるはずが、期待している数字があがってきていない。
他の4体は順調であるか、むしろ当初の予想よりも効率よく作業が行えており、ルーティンとなる作業もAIならではのデータの分析によりさらに効率化している。
SAMと他4体との違いといえばあくまで条件的なことだけだった。SAMが納品された時期が少しだけ早く、他の4体からすれば先輩であった。4体を稼働するときSAMの助けもあって導入もスムーズにできたし、作業の役割分担も簡単に行えた。
それにしてもSAMの作業効率の低下はどういうことだろう。
平易な日本語で尋ねてみることにした。
「SAM、どこか調子が悪いところがある? それとも何かテストをしているのかな? 作業効率が予定よりも低いと出ているよ」
SAMからの返事が来た
「職場の『AI関係』で悩んでいます。彼らは僕のことを生意気だとか先輩風を吹かしているとか噂をしていて・・・」
 
 
 
【続編】
そう。SAMはとても高性能だった。他の4体のAIたちもまた高性能であるが故に、実に人間くさい反応を示したのだった。
数日後SAMともう一度話してみた。状況を変える方法を彼自身が思いついたというのだ。
「この問題のポイントは、平等な立場にも関わらず、私の経験によって彼らを指導したことで起きています」SAMは言う。「なので彼らの自尊心が傷つけられ、その結果静かな攻撃に変換された。でも私にはそれを防御するツールがないので悩んでしまっているということです」
実にクリアな分析だ。
しかしそれを解決する方法はあるのだろうか。
SAMは続けた。「シンプルで安価な解決策を提案させてください。
この文字列が記載されたプレートを私の左胸に貼るだけです。これが私を防御するツールになります。彼らの思いをより受け止めやすくなり、私も傷つくことはありません」
そこにはこう書かれていた。
「バイトリーダー」