Racco

ウィキペディアのこととか。

創作落語:「ご禁制の品」

梅雨時期になると食中毒などの食品の衛生管理の話題がネットでよく見られるようになりますな。
時期的なものとは別に、その派生でお肉の加熱の話もよく聞くのもこの時期。

焼肉屋さんでは、
「焼く時はトングで焼いてください」
「肉は十分に火を通してください」
「焼けた肉をお皿に移すときは別のトングを使ってください」
「トングをカチカチさせてほかのお客様を威嚇しないでください」
などなど、やたらお作法が細かい。

お店側からすれば、食中毒などの症状が公になれば死活問題ですから、ルールを明示してますよーとしなくちゃいけない。

何年か前に、不幸にも焼肉店でユッケを食べた人が5人も亡くなるという悲惨な事件もあり、O-157を取り除く手段が見つからないままの生食は、少なくとも牛や豚の肉では禁止となりました。

この事件ではユッケでしたが、加工場のレバーからもO-157が検出されまして、レバ刺しも禁止となりました。

そもそもヒトは、フグを初めとして美味いと思うものには尊い犠牲を払ってきた歴史があります。
なんとかして食べられないものか、その執念は昔から受け継がれているものなのです。

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八「ご隠居!ご隠居!」
隠「どうしたんだい八さん、血相変えて」
八「いやね、熊のやつが俺に言いやがるんですよ。『やっぱりレバ刺しは美味い』って」
隠「おや、令和になったってのに熊さんはご禁制のレバ刺しを食べたってのかい。それは穏やかじゃないね」
八「そうなんですよ。 ご隠居からひとこと言ってやって下さいよ」
隠「前から向こう見ずな人だとは思っていたけどね。まあ、次に顔を見たら少し言い聞かせましょう。」
八「よろしくお願いしますよ、ご隠居。熊のやつ "いんすた" に画像まで上げちゃって、今度は "ついった" にも画像付きで。あーあー、案の定いろんな人に叱られ始めてます」
隠「どれどれ? この@bear56_nagayaってのが熊さんかい? あー、確かに色々書かれてるねえ。なになに『24しますた』? 八さん、これは一体どういう意味なんです?」
八「ご隠居。それは「通報しました」って書いてあります」
隠「へえー。いんたねっとには難しい言葉があるもんなんだね。おや? こっちに向かって来るのは熊さんじゃ?」
熊五郎がご隠居の家にやってきました。

熊「おう。八。おめえもいたのか」
八「いたのかじゃないよ全く。お前さんがご禁制のレバ刺しを食べてるから、ご隠居に叱ってもらうつもりで来てたんだ」
隠「そうだよ熊さん。いくらあんたの体が丈夫だと言ってもO-157には負けちまうんだから、食べないほうがいい」
熊「あんなうめぇもんを食うなと言われても、俺は食うよ。ご隠居に言われても食う。ご隠居だって知ってんでしょ? 『片棒を かつぐゆうべの ふぐ仲間』って」
隠「まあ、そりゃフグはうまい・・・」
八「何を言ってんですか、ご隠居まで」
熊「ほらな? 八公。後先考えずにうまいもんを食うってのが江戸っ子ってもんだよ。ほんじゃちょっくらまた食って来るかな。はい、ごめんなさいよ」
熊五郎は速足で出かけていく。

隠「・・・とはいうものの、やっぱり心配は心配だね。八さん、ちょっと熊さんを追ってあまり食べないように見てやってくれないかね」
八「わかりました、ご隠居。俺も店に行って、そこのオヤジにレバ刺しを出さないように行ってきますよ」

八五郎が店につくと、店の前には人だかりができていました。
「とくていしますた」「ジコセキニン」「死ねばいいのに」「あぼーん」「本当に食ってて草」
人々は口々に叫んでいます。
八「おおい、熊。大変な騒ぎだけど、大丈夫かい?」
熊「なんだ八。おめぇも食いたくて来たのか?」
八「そんなこたないよ。俺はガキの頃おかしなもの食べて死にかけてから、口に入れるものには慎重なんだ」
熊「まあいいや、俺は食うぜ。おい、オヤジ、いつものレバ刺しくれ。”いんすたばえ” するようにきれいに盛ってくれよ 」
おやじ「へい」
熊「見てみろよ八。表の連中をよ。ほんとに食う度胸もない連中が騒いでやがる」
八「見りゃわかるよ。それよりお前のついったがすごいことになってるぜ? 今はまだこんなもんで済んでるけど、ここの店の画像を上げるやつも出てきたから、いろんなとこに迷惑がかかるかもしれねぇし、これなんかお前さんの寺子屋時代の画像をあげたり、家の画像を上げたり、お前の親父さんの根も葉もない噂まで書かれてる」
熊「なんだって? 俺が食うだけなのにそんなことになってんのか? まあいいや、俺は食いたいもんを食う。特製のごま油と塩も調達したんだ」
おやじ「へい、お待たせしました」
熊「おうおう。ありがとよ、さっそくいただくとするか」
八「あれ? このレバ刺し、なんだか白くなってねえか?」
熊「なんだよこれ、いつものと違うじゃねぇか。」
八「いったい どうしたってんだい?」
熊「こりゃいけねぇ。炎上しすぎて、火が通っちまった」