先日、沖縄県国頭郡(くにがみぐん)の恩納村(おんなそん)で、ウィキペディア編集イベントが行われました。
一般向けのイベントではなく、恩納村文化情報センターで職員の方の研修として行ったもので、編集体験を通してウィキペディアがどういうものなのかなどを知ってもらうものです。
成果として「仲泊遺跡」「万座毛」「山田城 (琉球国)」に加筆や出典の追加が行われ、全くの新規項目として「国頭方西海道」(くにがみほうせいかいどう)が作成されました。
実は、イベント開催前に新規記事作成候補には、今回作成対象にはならなかったものの恩納村に伝わる民謡の項目がありました。
今回はその項目(まだこの時点では記事はないですが)をサンプルとして、
- 記事名のつけ方
- リダイレクト
- ふりがな
などについて、私なりの説明を書きたいと思います。
目次
谷茶前節
本題に入るまでが少し長いですがご容赦を。
谷茶前節という民謡をご存知でしょうか?
谷茶は恩納村の地名です。「たんちゃ」と読みます。
この地域の北西には砂浜が広がり、その浜は「谷茶前(たんちゃめー)」と呼ばれています。
漁村の漁の風景を踊りと共に琉球王に披露したという謂れを持つのが「谷茶前節(たんちゃめーぶし)」です。
この民謡の歌詞の碑が、谷茶前にあります。
「谷茶前の浜碑」という名前がつけられています。
記事名のつけ方(だからなんなんだという人はここから読んでください)
ウィキペディアにこの民謡「谷茶前節」の記事を作るとして、記事名はどうしましょう。
この文書の「正式名称」の解釈については論争の的になりがちです。「がいし」などでは実に一年をかけて議論が続き、「これが正式である」という根拠を示す、その根拠は希薄である、あるいはおかしいなどの論争に発展し、なかなか収拾がつかなくなることもあります。
「谷茶前節」の記事を作るにあたっての、気を付けなければならないことがあります。
これは民謡の名前は歌碑にあるように「谷茶前節」であろうということ。つまり「谷茶の前の浜の民謡」という意味です。
しかし本来なら海岸を指す「谷茶前」という言葉でも、民謡を指す場合があるようなのです。
「ハイサイおじさん」で著名な、喜納昌吉 & チャンプルーズの音源では「タンチャメー」あるいは「谷茶前」が楽曲の名前になっています。
https://www.amazon.co.jp/dp/B005C8QOJ6/ref=ap_ws_tlw_trk9
喜納昌吉&チャンプルーズOFFICIAL WEB » MUSIC
教育芸術社のサイトでも同様に「谷茶前」と表記されています。
https://www.kyogei.co.jp/shirabe/kyoudo/text47.html#02
またウィキペディアには「コーラル・ブルー 沖縄民謡「谷茶前」の主題による交響的印象」という記事があります。
このように「節」がなくても民謡を指すことがあり、読者が「谷茶前」と検索する場合があるので、記事名は「谷茶前節」とした上で「谷茶前」をリダイレクト作成します。
この時
「何故 ”谷茶前” としているタイトルが多いのに、記事名を”谷茶前節”としたのか」
のような論争になる場合もありますが
「現地の歌碑がそうであるから」
【乃木坂46】可愛すぎる生田絵梨花の沖縄民謡「谷茶前節」 - YouTube
などの理由を考えておいてもいいかもしれません。
曖昧さ回避
お寺や神社はウィキペディアの編集イベントの題材として適しています。
資料がある程度残っていることが多く、文化財があったり、お祭りがあったり、などの理由からです。
ただ、同名の寺社はとても多いです。
2015年10月に 第3回ウィキペディア街道「大山道」(海老名)で 海老名市にある総持院という寺院の記事を作成することになりました。
記事名を決める際に
「総持院という名前の寺院は海老名市にしかないのだろうか」
を調べました。グーグルの検索とグーグルマップ、それとウィキペディア内検索を行い、全国にある総持院を調べ、曖昧さ回避のページを作成しました。
その上で「総持院 (海老名市)」という記事名と決めて、これでウィキペディアでは一意となり落ち着くわけです。
2017年の尾道市立大学でのウィキペディアタウンでは尾道市にある「艮神社」(うしとらじんじゃ)の記事を作成しました。
当初、「艮神社」で記事を作成したのですが、調べてみると尾道市内だけでも御調町と山波町にあり、(尾道市長江)までを記事名に含めて一意の記事名としています。
その後同じ広島県内の福山市にも艮神社があり、本来ならば曖昧さ回避のページを作成しておいてもよかったのですが、他の「艮神社」を作成する際に作られる場合もあります。
記事名を一意にするために「曖昧さ回避」について検討しなければならないことがある、ということだけ覚えておいてください。
リダイレクト
”リダイレクトとはある記事へリンクしたときに、別のページに転送する機能のことです。また、そのようなページをリダイレクトページ(転送ページ)と呼びます”
とウィキペディアでは定義されています。
これを作っておくことによって「荒井由実」と検索しても「松任谷由実」の記事に自動で飛ぶようになります。
https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E8%8D%92%E4%BA%95%E7%94%B1%E5%AE%9F&redirect=no
松任谷由実への記事には
「ユーミン」
「荒井由美」(実と美の誤字)
「呉田軽穂」(松田聖子への提供曲である「赤いスイートピー」などでの別名義)
などなどいろいろなリダイレクトがあります。
「松任谷由実」へリンクしているページ - Wikipedia
言わずもがなですが、リダイレクトの乱立と、一意でないリダイレクトの作成は厳禁です。
表記ゆれとふりがな
ウィキペディアは記事対象の正式名称を定義づけるという役目を担うのではなく、読者が調べ物をしたいときに、煩わしくなく目当ての項目にたどり着くようにということを考えなくてはいけません。
いろいろなことを踏まえると「谷茶前節」の記事の定義文は、こんな風になるのではないかと思います。
谷茶前節(たんちゃめーぶし・たんちゃめぶし)は、沖縄県国頭郡恩納村の海岸「谷茶前(たんちゃめ)」での漁を題材とした沖縄民謡である[1]。
単に「谷茶前」と表記されていても、民謡を指す場合がある[2]。この項では民謡及び海岸をついて記す。
このように表記しておけば、読者が混乱することはないと思います。
「谷茶前」でリダイレクトページを作成するのを忘れずに。
NPOVに配慮
NPOVとは「Neutral Point Of View」のことで、ウィキペディアで「WP:NPOV」と検索すると、
に転送されます。
記事名で留意すべき「中立的な観点」とは何でしょうか?
これら言語版が異なる三つの記事は、同じものについての事です。
厳密にいえば、同じ記事名になるのが好ましいのですが、各言語版でそれぞれの異なる記事名を検索しても、ちゃんとたどり着く状態になっています。
ケーススタディ
東京電機大学のウィキペディアタウンでは「千住郵便局電話事務室」という記事を新規作成しました。
昭和4年に竣工したこの建物は現存しており、2019年(平成31年)現在は「NTT千住ビル」という名称の建物です。
昭和7年から平成14年までは「足立郵便局電話分室」という名称でした。つまりこの名称でいた時期が一番長いのです。
電話局の建物が、ウィキペディアの単独項目として成立するのはなぜかというと、
Wikipedia:独立記事作成の目安 - Wikipedia
この建物が日本武道館や京都タワー、永代橋、聖橋などを設計した山田守の数少ない現存する建築であるということが挙げられます。
この建物の記事名をどうするか、ということをイベントの最中にお話ししました。
私の考えが正しいかどうかは別としてお話したのは、
「この建物の特筆性は山田守が千住郵便局電話事務室の設計をしたことによるものなので、NTT千住ビルという記事名とするのは、現在POVではないだろうか」
もちろん、現状使われている名前で「NTT千住ビル」という記事名でもいいとは思いますが、名称が変わるたびに記事名の変更をしていくのもどうなのかなぁと思った次第です。