Racco

ウィキペディアのこととか。

福岡巡業 その5 九州国際大学での講義とワークショップ

このレポートは実務的な面を重視して書きます。

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与えられた時間:最大で90分+90分。途中休憩をはさむ。

対象:九州国際大学 現代ビジネス学部1年生 60名。

場所:図書館2階 ラーニングコモンズ 図の右下部分。
ただし、ホールではないので実際には柱があって見通しがいいわけではないのです。

各階案内 2F – 九州国際大学 Kyushu International University

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環境:今回はPC持込なし。設備の使用もなし。

協力:図書館司書さんの協力が得られるかどうか不明。

メールや実際の打ち合わせからあらかじめ想像&わかったこと:
(失礼な表現を含みますがごめんなさい)
1.どうやら学生さんたちはあまり図書館での調べ物にはなじみがないこと
2.60名がウィキペディアスマホで編集するのは大きなリスクがあること
3.ウィキペディアの編集についてある程度分かってる人が私だけであること
4.先生方も具体的にどんな成果を期待しているかはっきりしていないこと
5.「現代ビジネス学部」自体が今年4月からの新設学部であること[1]
6.カリキュラムとしては「プラン&プラクティスⅠ」であること
7.どうも担当の先生たちもカリキュラムをどうしていこうか試行錯誤であること

先日のブログにも書いたような、事務局長が「なんでウィキペディアをコピペしてはいけないのか、みたいなことだけでもわかってもらえたらありがたいです」とおっしゃっていたのも印象に残りました。


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いろいろ考えた末に:
1.講義は福岡大学で使用したスライドをベースに、1年生向けにアレンジ。ワークショップにつながるような話の内容にシフト。

www.slideshare.net

 

 

2.ワークショップは「夜大学方式(小澤スペシャル)」と勝手に命名している、ウィキペディア日本語版にある既存の地元記事から出典が不足している部分をピックアップして、図書館にある文献から出典となる記述を探す方式。
今回は52のお題を抽出しました。
2017九州国際大学ワークショップお題

あらかじめ大学側にお渡しし、該当の文献を準備する時間がなければ講義を短くして調整。

 

3.受講者は60人の学生さんなので、ひとりひとつの課題ではなく、何人かでグループを作ってもらい、これも状況に合わせて2人1チームから4人1チームまで、何人で組んでもらうか様子を見てその場で調整。

4.ウィキペディアに直接結果を書くにはスマホを使用するしかないが、そのチェックが不可能なので、こちらで用意したワークシートに典拠を記入してもらう。
(ワークシート作成には、ウィキペディアを通じて知り合いになることができた何人かの司書の方に相談して作成しました。この場を借りてお礼を申し上げます)

ワークシート と ワークシート記入例 

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準備とイメージは出来ました。あとは、やるだけ。
 
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当日。宇都宮事務局長さんが出迎えてくれました。天気もよし。

この日は結構人が多くて、何事だろうと思っていたら
「今日、オープンキャンパスなんです。すっかり忘れてました。わっはっは」という豪快なお答え。
「えっ。するとキャンパスツアーとかありますよね」
「ああ、だいじょうぶです。図書館はツアーから外しました」
ウィキペディアの海獺としてはむしろ受験志望の人たちにも様子を見てもらうのも面白いかもと思ったのですけども、私の講義でツアーから図書館を外してもいいものなのかと思ったりも。

図書館を訪れると、図書館の事務室長さんともごあいさつできました。
おお。ブックトラックには文献資料が用意されているではありませんか。
ややっ。昨日お会いした前館長の島浦さんも筑紫女学園大学の渡辺副学長もいらっしゃいます。現代ビジネス学部の副学部長の松井教授を始めサポートしてくださる教員の方々もスタンバイしてくださっています。現館長の伊東さんにもご挨拶ができました。

文献の用意はぎりぎりまで続いていて、52のお題のうち、この図書館では出典が見つからなかったお題をチェックします。
プロジェクターを設営して、準備はOK。

「本日、授業で使うためラーニングコモンズは使用できません」と書かれたホワイトボードに早くも落書きがされているのが、ちょっと不安。

学生さんたちが集まってきて、紹介を受け、講義は始まります。
配布資料は講義の後にしました。気が散ってしまうかなと思ったので。

講義では、ネットでこういうことをすると、こうなっちゃうよの話。情報の活用能力を意識していかないと3.4年生になって困ったり、差がついたりするよの話。ウィキペディアがどうやって運営されていて、記事は誰がどんな気持ちで作られているかの話。オープンデータに関する本当に入口の部分だけの話。

そして「けものフレンズ」の話。
けものフレンズというアニメがございまして、私はアニメには全く疎いのですけれども大層評判になったこともあり再放送がされるので全部録画して見てみました。
全12話のうち半分は、サーバルさんという耳が大きな女の子(?)が、主人公である「かばんちゃん」が何の動物なのかを調べるために「図書館」を目指すという話です。多少ネタバレになりますが、その世界の中ではどうやら人間と動物のハイブリッドが生息しており、唯一の敵であるセルリアンにつかまってしまうと、人間としての記憶を消されて野生動物になってしまうということらしいです(認識が間違ってたらごめんなさい)。

つまり、インターネットがない時代に、調べ物をするならば「図書館」に行けということ。しっかり情報をアーカイヴしないと情報そのものが残らずに「ないもの」になってしまうかもしれないこと。「記録が残らなかった出来事」は「なかった出来事」になってしまうかもしれず、今後は「検索にひっからない情報」は「ない情報」となってしまうかもしれないこと。というような話に絡めました。

先生方も興味深く聞いてくれています。

さてさて、講義の終わりの方まで、ワークショップの内容は学生さんたちには明かしていません。

ここまでにウィキペディアに載っている情報は、出典を伴っていなければ信頼性があいまいであるという話を繰り返しました。それを踏まえて行けば、このワークショップの意味合いがわかってくれるだろうと信じて。

44枚のスライドの43枚目。

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「はーい、3人一組になって。大学生なんだからとっとと」
「3人一組で課題をやるから、外から見てこの3人がチームだとわかるように座って
「リーダーを決めて。このワークショップの間は、リーダーのことは ”リーダー” と呼んでね」
           52のお題のリストとワークシートを配布。
「リーダーはこれからおれがテーブルを回るので、トランプを引いて。トランプのマークと数字が指し示すお題の出典を、このブックトラックや図書館から探して」
(出典が見つからなかったお題に対応しているカードはあらかじめ抜いておきました)
「どーしても見つからなかったら、先生や司書さんにヘルプ。それまではチームで力を合わせて」
「このワークショップは、見つかりました、良かったですという成果よりも、調べていくプロセスの方が大事だから、ワークシートに書かれていることをよく読んで、考え方の流れを意識してね」

リーダーが決まったチームから休憩で、その後再開。

では、GO!!!

学生たちは思っていたよりも積極的に行動を開始します。
わらわらとブックトラックに人だかり。

先生たちも各チームの進行状況をチェックしてくださいます。
でも思ったよりも学生さんたちが自主的に動き、調べ始めているので、先生方にこういいました。
「さあ、先生たちもやりましょう」まだ、お題はたくさんあるし、ワークシートもあります。

先生を巻き込んだことで、対抗意識と一体感が増したように思いました。

講義の時間を少し短めにして、ワークショップの時間を多めに取り、早いチームは既にお題をクリア。「ありがとう! 完璧です! 」私は見つけてくれたお礼を言い、まだ時間があるけど他のお題にもチャレンジしてみるかどうか聞きます。積極的なチームがミッションをこなすのが早いのか一番頑張ったチームはお題を3つこなしてくれました。
先生のひとりが言いました。
「うちの学生がこんなに真剣に本で調べ物をしているなんて初めて見るかもしれない」
先生たちもニコニコしながらワークシートに向き合っています。

学生さんたちにはなじみがないかもしれませんが、図書館の分類番号を書いてもらったり、お題のキーワードを意識してもらったり、書誌の記入例を意識してもらったりなども盛り込みながらのワークショップ。

海獺は全体の様子を見つつ、早くお題を提出してくれたチームのワークシートと出典となる文献をチェックし、リアルタイムでウィキペディアに出典を加筆します。
この時にプロジェクターの動きが気になっていた学生さんもして、なかなか鋭い。

ワークショップ後に「みんなが調べてくれたもののひとつをこうやって実際にウィキペディアに反映させました」といったときの「ほー」という低い声。

今回のワークシートはいったん大学側に全部お渡しし、先生たちが文献のチェックをしてくださる予定です。その後、それをもとにウィキペディアに反映させていただけるという流れになってほしいなぁ。


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日常的に見慣れているウィキペディアを素材として、地元のことを意識し、情報の正確性を確認しつつ、調べ物をする。そして、その先には百科事典としての外への貢献がある。なかなか有意義なワークショップになったかなと思います。

反省点は、地元の項目をお題にしたので、参考文献が同じお題もあり、他のチームが使ってる本待ち状態ができてしまったこと。チーム間で「それ終わったら貸してくれる?」というコミュニケーションをとるのも難しい部分があったようです。

今回のワークショップの利点は:

1.ネット環境がなくてもできる
2.参加者のネット慣れに依存することがなく調べ物学習が可能
3.講師側が、仮にウィキペディアに関する知識がなかったり人員的に少なかったりしても開催が可能
4.お題の絞り込みにより学習させたい対象のジャンルも絞れる
5.最終的にウィキペディアに反映ができ、成果を参加者に後日伝えられる
などです。

この方式であれば、人数にもさほど縛られず、中学生くらいから可能なのではないかなと思いました。

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海獺の福岡ミッションはこれですべて終わり。
先生たちも喜んでくれました。

でもでもなにより一番うれしかったのは、学生たちのミニッツペーパーです。
ワークショップ直後に、短く書いて提出するものなので、体裁よく書こうとかの紛れがなく、感情がストレートに出る気がします。
学生さんによってどこが印象に残ったのかが異なるところも興味深くて、これをもとに学生さんたちが互いにディスカッションしてほしいとさえ思います。それを横でニコニコ聞いていたい。

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以下は、ミニッツペーパーを画像データで送ってくださったので、それをもとに書き起こしたものです。赤い部分はなんだかとてもうれしいなと思った感想です。

 

171009 九州国際大学
ウィキペディアについて新たな発見があった感想
ウィキペディアについて知らないことが知れて良い経験になった。
ウィキペディアのお話が色々と聞けて初めて知ったことが多かった。
ウィキペディアは何気なく使用していたが、誰かがどこかで編集していて、その権利は自分にもあると知り、自分も編集して貢献しようと思った。
・身近にあるウィキペディアについて実際に中の人の話を聞ける貴重な機会だった。ウィキペディアに書いてあることを鵜呑みにせずに、自分で咀嚼して考えを持とうと思った。
ウィキペディアがどういったサイトなのか、信用できるものなのかを身をもって知ることができた。
ウィキペディアの元管理者の話を聞けることなどほとんどない貴重な経験をさせてもらった。
・私たちのグループは、門司港レトロ、小倉都心、黒崎副都心を中心としたまちづくり、九国大図書館の歴史についての資料を探して重要ページをまとめた。おかげでウィキペディアの項目に文献が加わり、有意義な時間になった。
ウィキペディアは使いやすいという印象があったが、それは多くの人が良いものを作ろうと協力したからだとわかった。

 

ウィキペディアを学んだことによって、気が付いたこと・今後のこと
・今回ウィキペディアについて大変詳しく学んだ。ウィキペディアを編集するのは誰でもできるが根拠をもってしなければいけないというのは知っているようで皆出来ていないものだと思う。今回の海獺さんの講演で学んだことをこれからに活かしていきたい。
ウィキペディア作成において出典がなければ信用されないことに驚き。その出典を探すことも大変な場合があると実感し、ネットに信用できる記事などを書くのはとても大変で難しいことなのだと知った。
ウィキペディアが個々の興味・関心・善意で編集された100%セルフサイトということを知ることができた。今後、ページ参照()が少ないページを改めていきたい。
ウィキペディアを愛用しているので今日の講義でたくさんの大切なことを学んだ。炎上されないように言葉を選びます。
・いつも便利だと感じているウィキペディアだが、信頼度はかなり低いということを改めて感じた。
ウィキペディアがボランティアで行われているサイトだったことを初めて知った。普段からよく利用しているので、間違った知識をそのまま覚えてしまっているのではないかと考えると少し不安になった。
ウィキペディアに自分たちでも簡単に書き込めることを知って驚いた。ウィキペディアには間違いも多いことを知って気を付けようと思った。


情報リテラシーの側面が印象に残った感想
ウィキペディアが不確かな情報であることは知っていた。けれど利用はしているから情報を正しく判断することを心掛けたい。とてもいい経験ができた。
・らっこさんの話を聞いて、ウィキペディアは100%信じるものではないということを学んだ。ネットでのマナーなども学べたので、ためになった。
・図書館などの本に比べてインターネットにある情報は信頼度が低いことは前から認識していたが、今回の話を聞いて改めて情報の取捨選択の大切さを実感した。これからは自分も正しい情報をウィキペディアを使って発信してみたいと思った。
ウィキペディアの信用性など、ネット上でのことが詳しく知れた。
ウィキペディアの情報を頼りにしていたことが多かったので、今回の話を聞いて掲載されている情報をうのみにするのではなく、どの本からの情報なのかを調べようと思った。
ウィキペディアの深いところまで知れたから、安全性、正確さなど、普段絶対に知れない部分まで理解することができた。インターネットがどういうものなのか少しは理解できた。
・ネットに書いてあるものは根拠があるものとして考えるのではなく、明記されてものでないと信じることはしてはいけないと改めて思った。また、自分で調べることもしないといけない。
・今まではネットで見た情報にただ目を通すだけだった。しかし今回のワークショップで、全く信用するわけではなくウィキペディアでは出典などを掘り下げて真偽を確かめていくことを学んだ。
・普段は気軽に閲覧しているサイト(ウィキペディア)が、本当の情報か、嘘の情報かまだ判明できていない内容のものがあるということがわかった。また、自分たちユーザーが、根拠のある検証できる内容に訂正したり書き込んだりしたいと思った。
ウィキペディアに書かれていることがすべて正しいというわけではないことを初めて知れたのでよかった。


〇調べるプロセスにまつわる感想
・本を探すのが思ったより大変だった。
・米町、魚町などの地名について学んだ。調べるのが思いのほか大変で疲れたが、勉強になった。
・城下町がどのように変わったのかを知る良い機会になった。
・本を探すのがとても難しかった。だけど舛添要一さんのことについてとても勉強になった。
・調べることの楽しさを実感することができた。
・実際に担当した課題についての裏付け情報を探すのはとても大変だった。いろいろな観点から書籍などを調べてみたが結局必要な情報を得ることができず、Webサイトの方で探すことになったので残念だった。
・何かの情報を得るために真実かどうか調べる過程が意外と楽しかった。
・チームで協力して完成させることができて嬉しかった。
・久しぶりに紙媒体のものを調べるために使ったが、これから調べることのためにも慣れていかなければと思った。
・今日の授業で、本を細かく読むことが難しく、普段体験していないことが体験できた。
・探して調べることは大変だったが、友達と協力しながら楽しくすることができた。
・今回調べものをして、久しぶりの調べものだったので楽しんでできた。
・図書館の様々なコーナーを探したが、カードのテーマに合った資料をなかなか見つけられず苦労した。結果的に探し出せたので良かった。
・出典を探すことはかなり時間がかかってしまったが、久しぶりに本を使った調べものができ、良い経験になった。


〇らっこさんについて
・なぜラッコってネームなんですか?
・先日に引き続き海獺さんの講義を聞くことができ、ウィキペディアについての知識がより深まった。資料集めの速度も上がり、とても有意義な時間を過ごすことができた。


〇その他
・普段では体験できないようなことができたので、とても楽しく勉強になった。これからレポートなどを書く上でとても良いことを聞けたと思う。


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そんなわけでお疲れ様でした >関係者の皆さま

この長いレポートが、読んでくださっている方の環境でも、ウィキペディアを利用したイベントの開催のきっかけになることを祈って。