Racco

ウィキペディアのこととか。

2017/08/18県庁夜大学 公開講座 「あなたも作れる“Wikipedia”―ウィキペディアンといっしょに編集体験!―」レポート その2

さて、その2は、実際に今後ウィキペディア編集イベントを開催する予定がある方々の参考になるように、記録として書いておきたいと思います。

テーマは「2時間でウィキペディアウィキペディアの編集の説明+編集体験をするには?」

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開催が決まり、形ができてくる中で、事前に 小澤さんとメッセージでやり取りして、どのような形で進めていけば限られた時間の中で効果的に進めることができ、ウィキペディアの編集も体験してもらえるかのアイディアを出し合いました。

参加者は地元の方がほとんどなので、やはり地元に関連する記事の方が対象としては親しみがあるだろうし、自分事として取り組めるのではないかという小澤さんのアイディアで、当初は長野県庁https://ja.wikipedia.org/…/%E9%95%B7%E9%87%8E%E7%9C%8C%E5%B…
の記事を参照して、実情と違っているところ、特に組織図を確認し、資料をもとに修正をしていこうと思いました。【テーマの絞り込み】

しかしながら「長野県庁」の記事の現状は、ウィキペディア的にというか百科事典的ではなく、文章がほとんどありません。これであれば県庁のホームページを参照していただくほうが、情報としては役立つし、正確でしょう。
他の都道府県庁記事を見てみると、東京都庁は文章量こそ そこそこあるけれど出典があまりなく、ありていに言ってしまえば参考になるような百科事典的な「都道府県庁記事」は今のところないのではないかという印象を持ちました。

というのも、「都道府県庁記事」と「都道府県庁舎記事」は分けて書かれることになっているようであり、つまり、組織としての記事と、建物としての記事は、別になっています。(しかも長野県庁舎の記事はまだ作成されていないのです)

ウィキペディアン的には、箇条書きや組織図的なものが中心の、あまり文章がない記事を題材にして編集イベントをすると、参加者の方が「ウィキペディアではこういう書き方が普通なのかな?」という印象を強くしてしまうかもしれないので、もう少しほかの題材を考えてみようと提案。
とはいうものの地元に関する記事を題材にしたほうが、参加者の取っ付きはいいと思うし、力も入る。

いろいろ探しているうちに、ど真ん中の長野県の項目に行き当たりました。
10万バイト弱の、画像あり、表あり、図ありと盛りだくさんの記事ですが、出典として挙げられているのはわずか20。
参考文献として挙げられている書籍も2つ。
体裁こそ立派なものの”検証可能性”という意味ではちょっとどうなのだろう、という項目になっています。

私は文章部分をざーっと読んでいくと、冒頭に近い部分にこんな記述を見つけました。
”古代は、科野(しなの)と書いた”
へー、そうなんだ。知らなかったなー、と思ったものの、出典がありません。つまりこの情報を裏打ちするものが記載されていません。ウィキペディアン的には出典が欲しいところです。たとえ地元の人にとっては常識的な知識であったとしても。

小澤さんとのメッセージでのやり取りの中で「”古代は、科野(しなの)と書いた”みたいな、出典がなくて、ウィキペディア的には出典をつけてほしいところに出典をつけてもらう」という編集体験はどうだろうという話になり、小澤さんからは、県立図書館が持っている、あるいはアクセスできる文献情報が用意できる物ならば、それはいいかもという後押しをいただきました。
そして長野県の記事から、出典つけてほしい箇所をいくつかピックアップ。最終的に主にキーワードがあるもの10個に絞り込んでいきました。【テーマの絞り込み、時間短縮】

*「科野」
*「市制施行要件を満たす町」
*「世界で最も古い磨製石器
*「伊那県」
*「東洋のスイス」
*「信州サーモン」
*「長野都市ガスは東京ガスグループ」
*「陸の孤島
*「伊那ナンバー、南信州ナンバー、軽井沢ナンバー、佐久ナンバー」
*「14の発電所 南信北信の管理事務所」

これらの項目は、地元の方、ましてや県庁関係にお勤めの方からすると常識かもしれないし、実際に小澤さんからも「信州サーモン」というワードは親しみがあるので『そうか出典必要かー』のような反応もありました。そうなんです。信州サーモン、私は知らないし、本当にあるのですかみたいな素朴な疑問を浮かべた時、出典が欲しいのです。【出典はつけるべきだけど、優先順位は人によって異なる】

この時点で参加者は16人くらいになることはわかっていたので、では共同作業という側面もちょっとだけ加味して、2人1組の班を8組作ることにしました。分け方をどうするか? PCを持参しない方もいるので、班にひとりはPCを持ってきている人を優先していきましょう、アカウントを事前に作ってきた人と来ていない人を組み合わせましょう、など考えましたが、最終的には2人がけのテーブル8個に着席いただいたそのままで、行うことにしました。【時間の短縮】

さて、会場こそ図書館の中ですが、きちんと区画されたミーティングルームなどではなく、広い閲覧室の隅の方で、サンドイッチを食べながら、ゆったりした雰囲気でもあるので、もうすこしイベント的な楽しい工夫もあってもいいと思いました。
出典をつけてほしいなの10カ所を文章としてピックアップして、節の名称も併記して、ひとつひとつカードを作ることになり、10枚のカードが完成。これを編集セクションに入った時にトランプのように引いてもらって、どのテーマを担当することになったか読み上げていただく。参加者たちは何がなんだかわからないまま「さあ、カードを引きたまえ」です。【遊びの要素】

もう一つの懸念は”編集競合”です。ひとつの記事を複数の人が編集しようとすると、編集の競合が起きてしまい、せっかく書いたものが消えてしまうなどの不測の事態が起きるときがあります。なので編集タブを開くときは挙手していただいて、「ただいま編集中」のサインボードを掲げましょうという配慮も。

自己紹介も大事です。2人1組で班になり、編集は競合を避けるため用意ができた順番でやり、編集対象はカードをババ抜きのように引く。時間はない。だけど自己紹介大事だしやったほうがいい。いきなり自己紹介してくださいだと時間的にグダグダになる感じもある。
そこで。
いつもウィキペディアの説明で時間の許す限り紹介している
ウィキペディア#事実が重要 (日本語) Wikipedia#FactsMatter (ja)」
https://www.youtube.com/watch?v=Zc29DapZM5w
という動画があるのですが、それも見せたい。じっくり見てくれなくても、あの動画は何となく思考の切り替えに役に立つから。

そんなこんなの要素をみんな詰め込んで、スライドを作りました。
*ウィキペディアの理念・規模などはほんとに最低限
*ウィキペディアに載ってることは信用できるのか
*そもそも情報の信頼性ってどういうことなのか
*ではウィキペディアにはどのように記載されることで人々の役に立つか
*突然ですが自己紹介して!
*でも突然すぎるから、動画を見ながらちょっとゆったり考えて
*編集方針はたった3つだよ
*さあ、今日やることを説明するよっ
というような内容です。

スライド
https://www.slideshare.net/RaccoJawp1/20170818-78988640

成果は?
めでたく出典が8つ付きました。
長野県の版間の差分(今回のイベントの成果がわかるような差分、左の状態が右になった)
https://ja.wikipedia.org/w/index.php…

というわけで、実際には10分ほど押しましたけれども、事前準備を万端にすれば2時間というような仕事後の時間でも、ウィキペディアのことを体験し知っていただけるようなイベントが、うまいことで来たのではないかと自負しております。

条件と考察:
*ピックアップした対象の出典となるような情報源を、スーパー司書さんが的確に用意しておくこと
*編集競合はそれでも起き、記述が消えてしまうことがあったので、今回のように長野県ひとつの記事からではなく、バラバラの記事から出典つけポイントをピックアップしておくと、待ち時間がなく進行はスムーズ。
*ブックトラックにある資料のうち、どれを使っていいかわからない時は、司書さんのアドバイスがもらえる形式にしたので、ドヤ顔(個人の感想です)。
*編集作業が終わった後に、履歴表示や投稿記録画面の解説をし、情報が公開されたこと、誰がいつどんな編集をしたか記録が残ること等の実感を持ってもらう。編集箇所を再確認して、どのように画面に反映され[52]←のような数字をクリックすると書誌情報に飛び、書誌情報の左にある「^」←をクリックすると、該当の文章に飛ぶことなどを説明。
*実際の編集作業にかかっていただく前に、飴細工の項目に、文章と出典をリアルタイムで追加し、編集というものを確認してもらう。
https://ja.wikipedia.org/w/index.php…
*ピックアップネタが2つ余ってるのに気づいたかんたくんは「楽しそうなので僕もやってみよう」と思ったものの、願いはかなわず編集アドバイスにシフトしてくださいました。
*Asakuraさんの存在もとても頼もしかった。知ってる顔があると安心です。

実際の参加者の評価は、SHIPさんの方で後日取りまとめていただける動きがあるので、客観的評価が紹介できるようなら、またPOSTします。

今回のイベントの目的のひとつである「公共図書館の役割と県立図書館における県職員の存在の意味」 を〆の時にしっかりと発言した時の小澤さんの表情は、とてもとてもきりっとしていました。思わず参加者が姿勢を正して聞き入ったような気がします。

なので、私もそれを受けて、「このようにスムーズにイベントの進行ができたのは、この情報はこの文献にあるという知識にたどり着くための高い能力を持った、図書館司書の存在があるからである」と〆させていただきました。

参加者の皆さん、県立図書館の皆さん、途中で(安心して?)飲みに行った方々。本当にお疲れ様でした。